和紙情報
和紙ひとくちメモ
- 靱皮(じんぴ)
- 「靱」は、強靱(きょうじん)の靱。しなやかで強いことを表します。
動物組織では、靱帯(じんたい)もこの字を使います。
- 「靱」は、強靱(きょうじん)の靱。しなやかで強いことを表します。
- 繊維(せんい)
- (生物体を組織する)細い糸状の物質
- 楮(こうぞ)
- クワ科の落葉低木。
春、淡黄緑色の花が穂状に咲き、実は6月ごろ熟して赤く、甘くなる。繊維は荒くて長く、強い紙を漉くのに適する。
棒っきれのような苗からでも芽がでてきます。夏には、背丈を遙かに超えるまで生育します。秋には株だけ残して収穫しますが、春にはまた芽が出てきます。生命力の強い植物です。
- クワ科の落葉低木。
- 三椏(みつまた)
- ジンチョウゲ科の落葉低木。
春、葉が出るより先に黄色の花が咲く。枝々が三つ又にわかれることからこの名がある。繊維は繊細で、優美な紙を漉くのに適する。
- ジンチョウゲ科の落葉低木。
- 雁皮(がんぴ)
- 暖地の山に自生する、ジンチョウゲ科の落葉低木。
以前は伊勢地方でも山から雁皮を採ってきて、いい小遣い稼ぎをさせてもらった、という話をよく聞きます。地元では、梶(かじ)と呼び慣わされていたみたいですが、 雁皮にまちがいないようです。当社で雁皮紙を漉いた記録はなく、当時の「小遣い」の出所はわかりませんが、今日でも雁皮は自生しているので、いつか「伊勢雁皮紙」に挑戦したいと思います。
- 暖地の山に自生する、ジンチョウゲ科の落葉低木。
中北喜得の和紙のメモ書き
書写材料を求めて
紀元前3000年 | メソポタミア 粘土板 エジプト パピルス |
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紀元前1400年 | 西アジア パーチメント(羊皮紙)、中国(殷) 金文(青銅器)、甲骨文字 (亀甲、獣骨) |
紀元前1300年 | (周) 竹簡・木牘(もくとく) (冊) |
紀元前500~400年 | (春秋) 帛書(絹織物に書いたもの) (卷) |
紙の発明 (薄い・軽い・保存性がよい・安価)
紀元前179~142年頃 | (前漢) 放馬灘(ほうばたん)紙 (世界最古の紙とされる) |
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紀元100年頃 | (後漢) 蔡倫 現代まで引き継がれている製紙法を確立。 |
5世紀、応神王朝の頃 | 紙の書物が多く日本にもたらされた。 |
610年 (飛鳥時代) | 日本 高句麗の僧曇徴が日本に製紙法を伝えたとされる。 律令の整備と仏教の布教活動のため紙の使用量が増加。 |
西洋の紙
751年 | 唐とアッバース朝がタラス河畔で戦う。唐が大敗し製紙法がサマルカンドへ。 サマルカンドでは、ペン書きのため、小麦粉の糊で滲み止めを施した。 その後、バグダッド・ダマスクス・イェメン・カイロ・トリポリ・フェズ(モロッコ)へ。 紙はアラビアからヨーロッパへの主要な輸出品となった。(数学・化学など文明を乗せて) |
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1144年 | ついに、製紙法がジブラルタル海峡を渡ってヨーロッパに伝わる。 |
1276年 | イタリアに製紙工場。ウォーターマーク、膠での滲み止めが開発される。 |
1450年 | グーテンベルクが活版印刷法を発明、宗教改革とあいまって紙の需要が増加。 ヨーロッパ各地で、18世紀終わりまで過酷な手すき製紙労働が続いた。 |
1690年 | フィラデルフィアに製紙工場。 |
1800年頃 | イギリスで製紙機械が実用化。 欧米では製紙原料は亜麻や木綿(もめん)のぼろだった。 紙の需要の増大と共に、ぼろ不足が深刻になり、 やがて木材を紙の原料にする方法が開発された。 (近代製紙法の誕生) |
1874年 | 日本で機械すきの紙の製造が始まる。 |
伊勢の紙
鎌倉時代 | 伊勢の山田八日市に紙座があり近江商人が伊勢の紙を京に運んだらしい。 |
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江戸時代 | 伊勢では、傘紙、半紙、生活雑紙など、主にすき返しで漉かれた。 |
1872年(明治4) | 神宮大麻の頒布が始まる。 |
1883年 | 殖産組が神宮大麻御用紙の奉製を始める。 |
1899年 | 神都製紙株式会社を創立。神宮大麻御用紙の全量を奉製する。 |
1947年 | 神都製紙は大豐和紙工業株式会社と社名を変更し、現在に至る。 |
1956年 | 大豐和紙工業株式会社で、製紙機械を導入。 |
1993年 | 伊勢まちかど博物館として「伊勢和紙館」を開館。 |
2002年6月 | 「全国手漉和紙青年の集い 伊勢2002」『和紙の祭典』を開催。 |
2005年5月 | 伊勢和紙を使った作品展示の場として「伊勢和紙ギャラリー」開設 |
和紙の原料
布として織られたものが、ボロとなって紙の原料になる例が多かった。
いわば、布のリサイクルとして紙が始まった。
(アサ科にはアサ(大麻)しか存在しない。多くの植物を「麻」と呼ぶのは、生活の中で繊維として役立つ植物を「麻」と総称したのではないか。)
- 麻
- 大麻(アサ科。茎から長い繊維をとる。漁網・蓆・衣類・弓の弦にする。)
- 苧麻(イラクサ科カラムシ属。ちょま・からむし・ラミー。越後縮緬などの原料となった。)
- 亜麻(アマ科。フラックス。アラビア・ヨーロッパの紙の主原料だった。)
- 黄麻(アオイ科ツナソ属。ジュート・つなそ。穀物を入れる袋などをつくる。)
- 紅麻(アオイ科フヨウ属。ケナフ。近年、環境面で脚光を浴びているが…)
- マニラ麻(バショウ科。アバカ。葉からとる長い繊維で漁網・ロープを作る)
- サイザル麻(キジカクシ科リュウゼツラン属。同じくロープに使用される。)
- 楮 こうぞ << かうぞ << かみそ(紙麻)
- クワ科カジノキ属。カジノキとヒメコウゾの交配種だと言われる。
那須楮・土佐楮が代表だが、それぞれ産地により繊維の質は微妙に異なる。
今日の手漉き和紙の主原料といえる。強靱な紙が漉ける。
糸状にした木綿(ゆふ)は幣としてお供えに使われる。古代、布として利用された。(白妙・和妙・荒妙)
- クワ科カジノキ属。カジノキとヒメコウゾの交配種だと言われる。
- 雁皮
- ジンチョウゲ科ガンピ属。
優美で繊細な紙が漉ける。栽培が難しい。
- ジンチョウゲ科ガンピ属。
- 三椏
- ジンチョウゲ科ミツマタ属。
楮と並ぶ優れた原料であるが、原料としては遅く登場した。
- ジンチョウゲ科ミツマタ属。
- 竹
- イネ科マダケ属。
宋代以降、現代の中国では画仙紙の主原料になっている。繊維は短くもろい。
- イネ科マダケ属。
『延喜式(927年)』による紙屋院での製紙工程別作業基準
(夏期1日1人当たりの処理量)
截(切断) | 煮(煮熟) | 擇(塵取り) | 舂(叩解) | 成紙(漉き) | |
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布 | 722g | 76g | 190枚 | ||
麻 | 874g | 722g | 76g | 175枚 | |
苦参(クララ) | 1064g | 798g | 76g | 196枚 | |
*榖(楮) | 2014g | 2014g | 988g | 494g | 196枚 |
斐 (雁皮) | 2014g | 2014g | 684g | 304g | 190枚 |
延喜式による中男作物
ほとんどの国から集められていた。(「みちのく」がない)
伊賀、伊勢、尾張、参河、駿河、甲斐、相模、武蔵、安房、上総、下総、常陸
近江、美濃、信濃、上野、下野、
若狭、越前、加賀、越中、越後、
丹波、丹後、但馬、因幡、伯耆、出雲、石見、
播磨、美作、備後、阿芸、周防、長門
阿波、讃岐、伊予、土佐、日向、大隅、薩摩、(太宰府)
紙の産地、和紙の種類
使用目的に応じて、各地で原料や漉き方を研究してさまざまな紙が作られてきた。
紙の種類はそれを必要とする人の数だけある。
それぞれの産地でそれぞれの漉き手が、得意とする分野の生産を受け持ってきた。
紙は人間が紙は人間が必要のためにつくり出したもの。
古代の発見が現代と融合するところに人間の生活がある。
- 木綿(ゆふ)
- 楮の樹皮を水中で腐らせたり、木灰や石灰の溶液で煮たりした後、川でさらして精製した。木綿(ゆふ)で織った布を栲(たえ)といい、粗い織布を荒妙(あらたえ)、打って柔らかくしたものを和妙(にぎたえ)、また漂白したものを白妙(しろたえ)と称した。
木綿(ゆふ)は神に捧げる大切なお供えであった。後に、麻が使われるようになる。(幣帛、麻と書いて「ぬさ」と読む。) いずれも、紙の原料であることが興味深い。
紙の原料としては麻が中国から伝わった。やがて楮が紙の主原料となっていく。日本人にとって、よく知っていてよく使ってきた植物から紙ができることがわかって、大変な驚きだったのではないか。捧げ物としての「ぬさ」が紙に代わったのも自然な成り行きだったと納得できる。
- 楮の樹皮を水中で腐らせたり、木灰や石灰の溶液で煮たりした後、川でさらして精製した。木綿(ゆふ)で織った布を栲(たえ)といい、粗い織布を荒妙(あらたえ)、打って柔らかくしたものを和妙(にぎたえ)、また漂白したものを白妙(しろたえ)と称した。
- 紙の文献
- 平安朝の貴族の文化や、武家屋敷での紙の使われ方、歌舞伎などで描かれる庶民の文化は記録として残されているが、庶民の生活については記述がほとんどない。
- 本居宣長 「玉勝間」 (日本の紙は用途が多い。書写材料としてだけではない。)
- 紙の用、物を書く外いと多し。まづ物を包むこと、また箱籠の類ひに張て器となす事。又かうより、かんでこよりと云ふ物にして物を結ぶ事などなり。これらの外にも猶ことにふれて多かるべし。然るにもろこしの紙は唯だ物を書くにのみ宜しくて、件の事どもにはいといと不便にぞありけり。かくて皇国には国々より出る紙のいと多くて、厚きうすき、強(こわ)きやはらかなる、さまざまあげも尽くしがたけれど、物書くにはなほ唐の紙に及(し)くものなし。人はいかがおぼゆらむ知らず。我は然(しか)おぼゆるなり。
紙の定義 | 植物組織の師部の繊維(靭皮繊維)を取り出して紙を漉く。 「植物繊維をばらばらに解して水に分散させたものを簀で漉き、乾燥させたもの」が紙。 水とセルロースの水素結合がセルロースの水素結合に変わる。 |
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道具 | 簀・桁・漉き舟・湿床・圧搾機・張り板・刷毛 |
工程 | 水漬け・煮熟・水洗/さらし・水撰り・叩解・漉き・湿床付け・圧搾・張り |
技法 | 溜め漉き(伏せるとき布を挟む) 画仙紙や厚紙などの漉き方。 流し漉き(化粧水・調子かけ・捨て水) 繊維をよくからませる和紙の技法。 |
粘剤の発見 | トロロアオイの根・ノリウツギの皮などを砕いて粘り気のある汁を抽出。 長い繊維を時間をかけて均等に絡ませて漉くため、粘剤は欠かせない。 ヌレ(滑) >> ニレ(楡) >> ネリ >> ノリ 「接着」に使うのではない。 |
紙の着眼点 | 簀の目・耳・ちり・原料・繊維の艶・晒しの程度・縦横・表裏・毛羽立ち |
和紙の用途の歴史
板・布の代用として用途を広げてきた。
律令制の戸籍用紙
写経料紙 | 金泥・銀泥 |
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王朝文化の詠草料紙 (檀紙、斐紙) | 源氏物語絵巻など、破り継ぎ・重ね継ぎ・切り継ぎ 打雲・飛雲・墨流し・羅紋など、抄紙の技巧も発達した。 日常の手紙のやり取りも料紙づくりから自分で手がけた。 (染色の選択、金銀箔装飾、木版による文様摺り) |
家屋、他 | 襖障子・明障子・衝立・屏風・掛け軸・行灯・灯籠・壁紙・腰張 |
産業用 | 裏打ち用・漆こし紙・茶紙 |
礼式等 | しめ飾り・紙垂・水引き・折形・扇・お神札・暦・篳篥用紙 お木曳きの「采(ザイ)」 |
実用記録用 | 武家の公文書用紙としての奉書紙、町人の日常記録紙としての半紙 |
趣味 | 色紙・短冊・書道半紙・画仙紙 |
商業、生活 | 帳簿用紙・浮世絵版画用紙・印刷出版用紙・鼻紙。 |
貨幣 | 紙幣(藩札・山田羽書) |
蒟蒻、油や柿渋による加工の例 (日常生活のあらゆるものが紙から作られていた) | 紙布・紙衣・烏帽子・札入れ・煙草入れ(擬革紙)・巾着・型紙 傘・合羽・提灯・一閑張 |
現代の和紙の用途
(記録・包装・吸収 << 折り・たたみ・もみ・より・貼り)
書 | 原料の配合などにより特性がちがう。出会いを楽しむ。 同じ墨を使っても、紙が変われば墨色も変わる。 |
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版画、印刷 | デジタル出力への対応。(写真・書作・ポスター) 水性染料・水性顔料インクは紙の上での挙動が墨に似ている。 |
建具 | 襖・障子など 京からかみ・江戸からかみ「和室」 |
表装 | 掛け軸・屏風など |
文化財修復 | 数多くの文化財に、それぞれ「似た紙」が必要になる。 |
工芸 | 草木染め・雲龍紙・塵入り紙・落水紙などさまざまな工夫がある。 アジアンテイストのあかり・ブラインド・ランチオンマット・タペストリー ペーパーフラワー・押花の背景・ちぎり絵・折り紙・和紙人形 |
包装用紙 | 折り型・ラッピング |
大豐和紙工業株式会社の現在と製品
神宮御用紙
- 機械抄き
- 頒布大麻銘紙・上包紙、大々御神楽大麻銘紙・扉紙 など
- 手漉き
- 献進大麻銘紙・扉紙、献上暦用紙 など
長い繊維を使用する和紙の場合、繊維長よりも小さい異物を機械的に除去することは原理的にできないので、抄紙した製品は全数検査のうえ合格品のみ出荷する。
「神宮」や「花菱」の透かしの位置・鮮明さなども同時に検査する。
お神札用紙として、清浄であること・和紙らしい風合いがあること、銘紙は近時のオフセット印刷適性に優れていること、上包紙は長距離の輸送にも耐える表面強度があることなどを目的として生産技術を磨き、これが伊勢和紙の特徴といえる伝統を培ってきた。
手漉きの場合は原料処理の段階からいちだんと厳密な異物除去を行う。
和紙研究家に日本一厳しい態勢だと言われたことがある。
宇治橋の欄干の擬宝珠の中に…
伊勢和紙Light・伊勢和紙Art・伊勢和紙Photo
(画像印刷用和紙・インクジェットプリンタ対応)
機械抄き・木材繊維を使用。
L判 から 860mm幅の大判ロール紙まで、薄手(120μm)・厚手(225μm)・特厚手(300μm)。
手漉き伊勢和紙 (最大1.1m×2.4mの大判まで生産可能。)
- 工芸用紙
- 杉皮入り楮紙・海藻入り楮紙
- 印刷用紙
- 伊勢斐紙 風雅 (石川県産ガンピ・高知県産コウゾ) のほか、タイ産コウゾやマニラ麻などの原料を適宜効果的に選択・配合して、さまざまな品質の和紙を作り出している。
薄手・厚手、版画用・インクジェットプリンタ用
- 伊勢斐紙 風雅 (石川県産ガンピ・高知県産コウゾ) のほか、タイ産コウゾやマニラ麻などの原料を適宜効果的に選択・配合して、さまざまな品質の和紙を作り出している。
伊勢和紙とインクジェットプリンタ
墨文字と深くかかわって発達してきた和紙は、水性インクを使うインクジェットプリンタと相性がいい。
特に伝統的原料を使用した手漉き和紙は抜群の特性を発揮する。
新しい発見がさらに伝統を堅固にしていくと思うとおもしろい。
手漉き伊勢和紙のインクジェット用紙は、にじみ止めや発色特性を整えるための薬剤を一切使用せず、原料の配合と原料調整の方法の工夫だけで印刷適性を整えている。
表面加工をしないので、「表」「裏」いずれにもプリントが可能で、表情に応じて選択できる。
表面の毛羽立ちをしっかりと抑え、清浄に漉いた手漉き伊勢和紙は、作品制作の現場で重要な製品として信頼されている。
伊勢和紙のこれから
- 神宮御用紙の堅持
- 伝統の継承と現代的用途との調和
- 伊勢和紙館伊勢まちかど博物館の一員、「伊勢和紙プリントの会」の情報拠点
- 伊勢和紙ギャラリー
- 伊勢和紙を使用した作品展示 (年間3回程度)
- 地元産の雁皮の活用
量産の価値
少数ではあっても技術の粋を尽くしたような作品が文化として珍重されるが、量産されるものにこそ本当の文化が宿る。
少数の芸術作家が文化を作るのではなく、田舎の小さな工場が能力に応じて量産する工業製品こそが本当の文化を担う。
庶民の支持があるからこそ量産が可能になるので、歴史を読むときも工場経営を考えるときもこのことは忘れないようにしたいと思う。